第78章

大島莉理は冷静に録音ボタンを押した。

向こうから転がり込んできた証拠だ。もらえるものはもらっておく。将来、離婚調停や裁判になったとき、勝ち筋をつくるために。

ところが録り始めて一分も経たないうちに、スマホから音が消えた。

次の瞬間、通話が切れる。

大島莉理はわずかに眉を寄せた。

……田中尚哉に気づかれた?

だが車内の状況は、彼女が思い描いたものとはまるで違った。田中尚哉は加藤柚奈の手首を掴み、彼女は身動きが取れないまま、歪な体勢で彼の上に覆いかぶさっている。

それなのに、甘い仕草ひとつできない。

加藤柚奈は唇を噛み、戸惑いを押し殺して問いかけた。

「田中社長……?」

「妊...

ログインして続きを読む